ピーナッツくんという作品 「False Memory Syndromes」
アニメキャラであり、バーチャルYouTuber(VTuber)であり、ゆるキャラであるピーナッツくんがついにミュージシャンとしてデビューした。
そのファーストアルバム「False Memory Syndromes」についての感想を書く。
※各音楽配信サイトのリンク
ピーナッツくんについて事前に知っておくべきポイント
・ピーナッツくんの「ご主人さま」(中の人)は「兄ぽこ」と呼ばれる20代半ばの青年だということ。
・兄ぽこはピーナッツくんアニメを制作し、他のキャラ達の「ご主人さま」でもあること。
・「ぽんぽこ」は兄ぽこの妹であること。(ジャイ子と逆の仕組みだなこれ)
これらはピーナッツくん、もしくは「ぽこピー」について触れていくうちに分かる暗黙の了解ではあるが、わかりやすくするためあえて書いておく。
アルバム自体について
公式なところで明確には出ていないと思うけど、全曲トラック自体は買ってきたものと思われ、作詞はピーナッツくんら(実質兄ぽこ)、編曲は1曲除きワニのヤカ氏(VTuber界隈で音楽やってる人)。
タイトルのFalse Memory Syndrome自体はググると偽記憶症候群といった精神医学関係の用語で、悪意や意図的ではない「嘘」を植え付けられたり作話してしまっている記憶を持った症例とのこと。オカルト系が好きだと心理学とか精神医学とかの知識を入れ出すイメージがあるけど、ピーナッツくん自体はそこまでそういったものが好きだという印象がなかったので意外なタイトルだなと思った。
ただ、このタイトルはピーナッツくんを構成するものに切り込んでいくという意思を感じた。複数形ってところもポイントっぽい。
1.DUNE!
「オシャレになりたーい!」から始まることで期待と不安を感じた。
本当に「ピーナッツくん」のアルバムでかつ一曲目として機能しているところを考えるとコンセプトも曲順も繰っててかなり力を入れてるんだろうという期待、あくまでキャラクターソングアルバムになるのではないかという不安。
ただ、この曲が終わる頃には期待しかなくなった。
ヒップホップを聞き慣れていないし、今の流行りを全然知らないので何らかの引用もあると思われる要素を聞き取りきれていないとは思われるが、「酸素は君らの再生数」とか「ただのお散歩のつもりがいつしか終わらない遠足」とか自己の活動に言及した歌詞に「おっ」となった。
というかこの曲でいきなり「月刊ムー」とか「イルミナティ」とか普通に出てくるんですよね。そういや実況とかでワードとして「ムー」はよく使ってたよね。使うだけに普通に好きなんですかね。
2.ピーナッツくんのおまじない (feat. チャンチョ & オレンジ博士)
真空パックに閉じ込めよーっと。
初め配信でタイトルを見たときに大丈夫かよと思ったこの曲がまさかのアルバムの核心要素に切り込む曲に仕上がっていた。
feat.チャンチョ&オレンジ博士となっていたのでキャラ紹介的な要素かなと思うと曲が進むにつれそうではなくなっていく。
なんと兄ぽこパートが出てくる。しかもピーナッツくんについて「僕を救ってくれたマイヒーロー」と表現し、ピーナッツくん自身も優しい声で「授かった名前はピーナッツくん、この声・体、君との違いがぼくがピーナッツくんたる由縁さ」と受け答えをする。
これドラえもん誕生みたいな曲やん。
3.グミ超うめぇ
PVも公開済の作品。
単純に曲として浮遊感が楽しい。そこに乗る歌詞(ラップだとなんていうの?ライム?フロウ?)も心地がいい。
Twitterで7,8年前グミクラスタって結構いたなと思い出した。兄ぽこがそれくらいの年代かぁと思い当たった。まあグミは年齢関係なく好きなら好きなんだけど。
深読みしたら出来なくないのかもしれないけど、普通にがっつりグミのことを歌っててかわいい。
企業とコラボしてCMやってほしいけど、ピーナッツ味のグミは食いたくねえな。
4.Kick!Punch!Block! (feat. デニムくん)
デニムくんというキャラクターを知ってないと気持ち悪いだけの曲かもしれない。
デニムくんの実例がわかりやすいようにすくすくピーナッツくんのリンクを貼った。あえて第2回なのはサムネがデニムくんなので。
デニムくん自体は精神的にダメージを受けて履いているジーンズをダメージジーンズにしようとするキャラクターだ。気持ち悪い行動、言動をして攻撃を誘うわけだが、この曲でも挑発している。
特に「アスファルトに君が吐いた唾を 指ですくって口に入れてキメる」ってところの気持ち悪さが群を抜いている。あと5ch批判と思われる箇所も「IDなし」というシステムに言及したり「素直な意見それでも的外れでは面白くないからみんな鍛えてよ」という書き込み煽りをしたりとデニムくん自体なのかそこを通しての意見なのか微妙なラインを攻めてきていて良い。
5.おねがいマーニー
どこかで見たのだが、ヒップホップでは金のことを歌うノリがあるらしい。
マーニーとはそういうラインのことなんだろうけど、この曲はVTuberとしての金を稼ぐというテーマになっている。
「ゆるキャラのハスラー」とか「サイゼ食べるパスタ」とか「僕はバーチャル土方」とか「その気なりゃTwitterにDM晒すこともできる」とかフックのある言葉が次々出てくる。
「いつも金縛り夢もないのに」ってのは結構来るものがあった。不思議となんかやらなきゃならんなと思わせてくれる曲。
6.レオブタ解体ショー
レオタードブタ自体はピーナッツくんアニメにも出てきてアニメ内でも現実でも既にアーティストデビュー済のキャラクターだ。
既にリリース済のアルバムからPVが作られた「幸せジャンク生活」を。
正直レオブタ名義の曲が入ってくるのが不思議だったが、考えてみるとレオタードブタは「レオタードブタとヤギハイレグ」の名義で活動を行っており、個別だとピーナッツくん傘下でやる形なのかな。
曲自体はタイトルもそうだがダーティーな雰囲気で、売れてるヒップホッパー感が出ている。
7.Pokemon Purple
既に楽曲としては発表済のこの曲が入ってくるとは思わなかった。
元々好きな曲ではあったが、より良くなった気もする。
がっつりポケモン自体のことを歌ってて大丈夫なのかとは思うが、同時に企業勢VTuberディスも含んでいることを思わせる歌詞が出てきて兄ぽこのメッセージを感じる。
多くの人が言っているところだが「たんぱんこぞうがあけるシャンパンボトル」ってところが韻の踏み方が気持ちいい。
8.ねむれないクリスマス (feat. ジョビルボ松本)
初出はピーナッツくんアニメ本編。
今見たらコメント機能オフになっててビビった。もしかして子供向け設定になってるのか?
これアニメとしてというかお笑いとしては定番の「お前誰だよ」の笑いの作品なんだけど、そんなことよりも曲の良さでそのことを忘れそうになる。
夜中の2時過ぎ頃の夜勤て何時に引き継いでんねん。
ただ、この曲が収録されたことでクリスマス頃にもう1回アルバムを出すとかそこまでは決まっていないんだなとか考えてしまった。
9.おやすみグッナイ (feat. チャンチョ)
なんていうんですかねチルアウト的な要素なんですかね。
ここまでは割とヒップホップのノリの曲が多い中、きれいに歌メロが良い作品で心地が良い。
チャンチョが歌っているんだけど、少し兄ぽこ本人な雰囲気もあって不思議な感じ。
「Suchmosみたいに」ってところでSuchmosが歌詞に使われるんだなと思うと同時にレオブタとヤギハイの曲ではくるりの一節が引用されていたことも思い出した。あと古川日出男の小説にNumber Girlが出てきた時のような感覚も思い出した。
編曲は某有名ミュージシャンとのこと。
10.幽体離脱 (feat. チャンチョ & ぽんぽこ)
終盤に来たなと思わせる連続の2曲。こちらも1枚絵だが曲を公開済。
ぽんぽことのデュエット曲。
ぽんぽこ自体ファンメイドのオリジナル曲を歌うこともあるし、カラオケ企画のようなこともするのだが、基本的には歌うのが少し恥ずかしいようだ。
おそらく流行りの歌い手やVTuber的な歌ウマの歌い方ができないという気持ちがあるんだろうけど、普通の女の子という優しい歌い方が良い。
幽体離脱自体の考察は何人か既に言及してて、いい感じに書いてたので簡単に触れるとVTuberと中の人という関係性の歌のように思われる。
VTuberはその二次元(もしくは3D)がガワであり、中の人が肉体をもっているわけだが、その肉体から発する声、思考、時には動きを乗せることで成立しており、中の人が「魂」とも呼ばれたりする。その「魂」が抜けるときのことを想像させる曲。
そもそもピーナッツくんのシリーズには多くのキャラクターがおり、よく動かすキャラだけでも5人以上の「魂」として兄ぽこは存在している。その中でもチャンチョは「チャンチョ」というキャラクターに閉じ込められることを「チャンチョ原理主義者」として罵ることもあるほど自由を求めるキャラクターでもある。そのチャンチョが「君と僕は同じ心でひとつ だけどずっと一緒にはいれないよ」と歌うのが寂しくも聞こえるが、そのまま「のぼっていく」ことで解き放たれるのかもしれないという開放感もある。
「ターザンもシンバも司会稼業なんてしないだろ」のような自虐と取られる箇所や「アイドル稼業じゃ僕は生きられないから」といった今のVTuber業界への意見を思わせる箇所も優しくも悲しい。
そういえば、幽体離脱といえばsyrup16gの遊体離脱も浮かんでくる。
11.Drippin' Life
アルバムラストの曲。コーラス含めピーナッツくんキャラクター大集合になっている。
実は今は限定公開になっていると思われる生放送で既に発表済ではあった曲。
その時はポップでかわいい曲だなくらいにしか思っていなかったが、今後の活動へのメッセージがかなり込められた曲になっている。
明るい曲調なんだけど、序盤から「死ぬまで」とか「急死」とか「いつか絞りかすになる」とかネガティブなワードが散見される。
中盤の怒涛のリリックはかなり強く具体的なメッセージが含まれており、特に「出る杭がもっと出て黙らす外野」については登録者数や再生数、同時接続数などで外野が競い合わせるようなVTuber業界において個人勢で圧倒的な数字を持てていない状況でも戦っていくという強さ、本質を得てきた「イキリ」を感じる。
終盤のデニムくんの「日々が走馬灯」からピーナッツくんの「だからみんな見てろよ僕の描く走馬灯」というのがすごくかっこいい。
なんか誰向けかわからない文章をだらだら書いたが、なんせすごく良いアルバムだったということ。
こんな記事よりも下のリンクで実際に見てもらったほうが早いので見て。